上映報告・ヒポクラテスと蓮の花


 日本、ヨーロッパ各地で「ヒポクラテスと蓮の花」は上映され、以下のような上映報告が届いています 。

【目次】
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2 第11回内観国際学会(ドイツ)
3 森田療法ワークショップ(ハインリヒ・ハイネ大学 / ドイツ)
4 デュッセルドルフ自然療法士養成学校(ドイツ)
5 フランス精神医学 国際学会 Psy Cause congres de Kyoto
6 関連事項



第11回内観国際学会(ドイツ)


 2016年9月17日、ドイツ・バイエルン州・バーバリアン・フォレストで開催された、第11回内観国際学会にて上映されました。 
 西洋の方が内観療法に関心があることを、大変興味深く感じますし、私たち日本人にとっては、自国の文化や精神性を再考するよいきっかけになるのではないかと思います。  
 弊社作品を通して、こうした議論が国際的に活発になされることはとても喜ばしいことです。今後、西と東の様々な場所で、様々な議論がなされることを祈ります。  
 シュピースさん、お疲れ様でした。ありがとうございました。

ヒポクラテスと蓮の花・学会写真1ヒポクラテスと蓮の花・学会写真2





森田療法ワークショップ
(ハインリヒ・ハイネ大学 / ドイツ)


ヒポクラテスと蓮の花・学会写真3

 2016年8月27日。ハインリヒ・ハイネ大学・実験生物学的心理学インスティチュート(デュッセルドルフ / ドイツ)。  
 現地の心理学者、臨床心理療法家に向けて開催された「森田療法ワークショップ」において、弊社ドキュメンタリー作品「ヒポクラテスと蓮の花」が上映されました。  
 夏休みの終わりの時期だったせいか、参加人数は19人ほどでしたが、参加者は、明らかに映画に魅了されたようでした。  
 上映後には議論が行われ、以下の2点を中心に議論されました。
 
  1)カメラでの捉え方、作品構成など、美的感覚のある作品。作品それ自体が芸術作品である。
  2)症状を除去しないということに焦点を置かず、むしろ症状を除去しようとすることを症状とする療法に、不思議な感じを憶えた。これは治療者にとっては予想外であった。  

 さらに議論は、宇佐療法に内在する治療技法に関する話に集中しました。  
 多くの人が、映画で伝えられた宇佐療法の中に、催眠療法、教育療法、認知行動療法の要素を見出し、また、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)(*1)との比較が論議されました。  
  後日、女性の参加者から、こんな意見が寄せられました。  

 『最初のリアクションは、苛立ちと純粋な拒否でした。これは治療ではない!  しかし一晩すると、この療法のある一面が、患者を健康へと促すのではないかと感じ始めました。患者の心にある深い信頼感。その要素に私は感銘を受けたのです。 それは、アントノフスキー(*2)の 「健康生成論」(*3)の概念を想起させます』  

他の参加者はこう述べています。  

 『興味深いワークショップにお招きいただき、どうもありがとうございました。 特に、映画「ヒポクラテスと蓮の花」は、私たちの文化的地平の向こう側の精神療法、その態度と方法を見ることを可能にしてくれました』  

 9月には、ドイツで行われた内観学会でも上映されましたが、同じドイツでも上映される会によって、ディスカッションされる内容が違うことが大変興味深いですね。  
 ワークショップを主催されたWalter Dmoch博士は、弓道を愛する親日家。  
 彼の目から見る日本文化も、私たちにとって、とても興味深いものでしょう。  Walter Dmoch博士、お疲れ様でした。ありがとうございました。


 脚註
1) ACT (Acceptance and Commitment Therapy):  
  新しい認知行動療法とも呼ばれる米国の心理療法。  クライアントが、自分の症状を排除しよう、治そうとするのでなく、それを丸ごと受け容れるということなどが、森田療法に近似していると指摘されている。

2) アントノフスキー:  アーロン・アントノフスキー / Aaron Antonovsky(1960~1994)  ユダヤ系アメリカ人の健康社会学者

3) 健康生成論:  
健康社会学者アーロン・アントノフスキーが提唱した理論。  従来の医学の方法、病気の原因となるリスク(喫煙、飲酒、肥満など)を解明しそれを取り除くという考え方とは逆に、健康になるための要因(運動、良好な人間関係など)を解明し、それを強化するという立場を取る。



デュッセルドルフ自然療法士養成学校(ドイツ)



ヒポクラテスと蓮の花・学会写真4  ヒポクラテスと蓮の花・学会写真5

 2015年11月21日(金)、デュッセルドルフ自然療法士養成学校(ドイツ)にて、 「ヒポクラテスと蓮の花・ドイツ語字幕版」の試写会が開催されました。 関係者の方から、ご丁寧な報告をいただきましたので、紹介させていただきます。  

 ドイツでは、クライアント(患者さん)の自己治癒力を高めて、身体や精神の病や障害を治癒させる自然療法という治療カテゴリーがあり、それを実施する自然療法士という治療者の方々がいます。日本で治療者と言えば、医師が中心となってしまいますが、ドイツではこの自然療法が国からも認められており、治療の選択肢の一つとして市民権を得ています。  
 デュッセルドルフ自然療法士養成学校・校長、シュピース氏は、かねてから弊社作品「ヒポクラテスと蓮の花」を評価してくださり、ドイツ語字幕版の制作とドイツでのDVD販売を熱心に提案してくださっていました。  
 先月、ドイツ語字幕版の制作が終了し、そのお披露目として、自然療法士養成学校にて試写会が行われました。  
 メールでご送付いただいた試写会の報告は以下の文章で締めくくられ、添えられた写真からも、とても暖かい雰囲気の中で上映が行われたことが伝わってきます。

『上映会場は満員。皆さん、非常に興味深く視聴していました。 (上映後の)ディスカッションは、シュピース氏の司会で進められたのですが、ヨーロッパの精神科治療の問題点と、それと対照的な森田療法の「あるがまま」が指摘され、参加者にとって、映画のいくつかのシーンの意味が、またよりいっそう理解されたようでした。お蔭様で上映会は大成功だったといえます』  

 以前、ポーランドで仕事をしていた際、ポーランドの俳優の方から 「西洋と東洋には、目に見えない透明な壁がある」 と指摘されたことがあります。言い得て妙だと思います。  
 中でも森田療法は、西洋の精神療法の文脈から見ると、なかなか理解されにくいことが かねてから指摘されています。例え理解したとしても、「禅」という絶対的価値観に傾倒した解釈が、西洋の方には多いような印象があります。  
 これこそが価値だということを排し、日々の生活や事象、自然や人との関係、そんな折々の関係の中に、“まことの花”を見出していくのが、日本的世界観の特徴であるように思います。  
 そんな中で今回、ドイツの方々が、自然療法という観点で「ヒポクラテスと蓮の花」を解釈し、評価してくださったことを、とても興味深く、そして嬉しく思っています。  ドイツは、ゲーテやヘッセを生んだ国です。森田療法の中にある東洋的世界観を感受する感性がないわけがない、と、かねてから思っておりました。  
 今後ドイツで、より多くの方々に、「ヒポクラテスと蓮の花」鑑賞のチャンスが広がればと願っています。  
 字幕のドイツ語訳という大変な作業と、ドイツでのDVD販売のレールをひいてくださったシュピース様の熱意と努力。また、細やかな配慮で間に立ってくださっているフックス様のまっすぐな誠実さ。お二人がいなければ、今回のプロジェクトは実現しなかったことでしょう。重ねてお礼申し上げます。       

「ヒポクラテスと蓮の花」監督 野中 剛



ヒポクラテスと蓮の花・学会写真6
 




フランス精神医学 国際学会
Psy Cause congres de Kyoto



ヒポクラテスと蓮の花・学会写真7ヒポクラテスと蓮の花・学会写真8

 2014年10月19日、京都で開催された、フランス精神医学の国際学会"Psy Cause congres de Kyoto"にて上映されました。  
 Psy Cause は、フランスで、ラカン派精神分析に関心のある精神科医を中心にできた研究組織です。南仏アヴィニョンの精神病院に本部があり、この病院は、カミーユ・クローデルの入院した病院としても知られています。学術的色彩の強い大学精神医学ではなく、精神医療に密着し、精神医療に関わる文化背景の違う人達が交流する組織です。  小規模の研究会に加え、機関紙も年2回発行され、年に1回、開催国をを変えて、国際学会を開催しています。その国際学会が、今年は10月19日、20日、21日に京都で開催され、「ヒポクラテスと蓮の花」が上映され、上映後に監督(野中)との質疑応答がなされました。  
 学会参加者のほとんどは、フランスを中心とした外国からの方々でしたが、皆さんとても熱心に映画を鑑賞くださいました。  
 質疑応答とその後の歓談を通しての観客の方々の感想は、例えば、

「西洋の精神療法では、いかに心の葛藤やその原因を言語化、意識化していくかということにフォーカスが当てられる。しかし森田療法の場合は、それらをいかに不問に付すか、ということにフォーカスが当てられる」  

 と、その大きな違いに驚いているようでした。  
 しかし映画の最後、主人公が過去の自分を振り返り大きく笑う姿を見て、

「治癒とは、自分を客観視できるようになること。それはヨーロッパも日本も同じなのだろう」  

 と、発言する方もいらっしゃいました。  
 文化的差異の比較の中で、日本の文化と精神療法を見つめ直すことのできた、有意義な学会でした。関係者の皆様にお礼申し上げます。



関連事項



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