コラム2

【目次】
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2 森田療法。 治療論明確化の難しさ、誤解と混乱
3 関連事項


森田療法。 治療論明確化の難しさ、誤解と混乱


 精神科医 北西憲二氏、長山恵一氏は、治療論明確化の難しさ、そして根幹部分(本質)が言葉で伝えにくい森田療法について、以下のように述べています。

「森田学派は伝統的に治療過程において非言語体験を重視し、そして森田自身、そして現在においても理論よりも実践を重んずる傾向があることは否めない。そしてその実践の場である治療構造は、多因子的で、かつそれらが渾然一体となって治療システムを作っているため、治療構造を軸とした神経症理論や治療論の見直しが困難である。それらが森田療法に関する多くの誤解と混乱を招いた最大の原因だろう」
出典:『森田療法の研究 新たな展開を求めて』(金剛出版 / 1989 / 115頁 / 「総説 森田療法 森田療法における治療論を中心に」北西憲二、長山恵一)


 また、森田療法の非言語体験や治療目標などを言葉で表現した森田用語(「あるがまま」「なすべきことをなす」など)が、時に治すための方法(態度)としてスローガン化(標語化)されてしまったり、意味を誤解されてしまう。そして、そんな森田療法用語にとらわれてしまい 逆に悩みをさらに深めたり、混乱を招いてしまうことは、以下のように多くの治療者から指摘されています。


「『なすべきことをなす』ことを完璧に実践できない自分に、また劣等感を加えてしまうのです。そうでなくても、何かにつけて人と自分を比較して自分にダメ出しをする習性のあるのですから、なすべきをなそうとすることが悩みを深くしてしまうことにもなりかねません。」
出典:『流れと動きの森田療法』(岩田真理 / 白揚社 / 2012 / 232~233頁)


「森田療法の真髄と言われる『あるがまま』という言葉は、このように神経質の人を混乱させます。ところが森田正馬自身は、この『あるがまま』という言葉を、それほど多様していません。『あるがまま』という言葉が独り歩きすると、神経質の人はそれを目標にしてかえって混乱するということを、どこかの時点で理解し、なるべく他の言葉で言い換えたようです」
出典:『流れと動きの森田療法』(岩田真理 / 白揚社 / 2012 / 171〜172頁)


「特に『あるがまま』という治療的概念はさまざまに解釈され、それが森田療法という日本独特の精神療法にある種の偏見や誤解を生んだことは否めない」
出典:『森田療法の研究 新たな展開を求めて』(金剛出版 / 1989 / 168頁 /「Ⅳ森田療法における治療論 基本的概念の検討を通して」北西憲二)


「②あるがまま
 不安にとらわれない態度をしめす言葉として、森田療法の代名詞のように使われます。しかし、とらわれの態度の目立つ患者に対して治療の中で使うことは禁忌です。当面の不安に対して用いる場合はそうあるべきだとの観念的な姿勢を強めてしまう可能性が高く、治療目標の意味で用いる場合は治療や治癒像を理想化することばとなりかねないからです」

出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 (ミネルヴァ書房(2005)121頁 「7 外来治療」立松一徳)


「③目的本位
 『目的本位に』『なすべきことをなせ』などと、患者に対しての行動指針として用いられることがあります。このことばも治療の中で使うことは禁忌だと思います。とらわれの態度の強い患者に対しては、こうであるべきだとの観念的な姿勢を強めかねません」

出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 (ミネルヴァ書房(2005)122頁 「7 外来治療」立松一徳)


「④恐怖突入
 このことばも、治療の中で用いることは禁忌です。恐怖を敵に回してこれとたたかい、のりこえようとするような態度を強化しかねないからです」

出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 (ミネルヴァ書房(2005)122頁 「7 外来治療」立松一徳)

文章:野中 剛

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