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森田療法


森田療法の どんな時代にも変わらない部分(本質)を伝えるDVDシリーズ

森田療法ビデオ全集について






推薦の言葉①

(「第1巻 生きる」)


土居健郎

(精神科医 / 「甘えの構造」著者)



森田療法ビデオ全集を推薦する。

 この度関係者の努力により森田療法がビデオ化されたことを心から慶賀したい。私は早速見せて頂いたが、大変良く出来ている。
 解説者の役を務めた藤田千尋医師や患者代表として登場された方々の演技ならぬ演技に感心した。
 しばしば背景に出てくる自然の情景、特に川の快い流れは森田療法の真髄を象徴する。西洋に起源を持つ精神療法がすべて室内で行われるのに対し、ひとり日本で起きた森田療法のみは自然との関わりを重んじるからである。
 私は森田学派の徒ではないが、森田療法には学ぶべき多くのものがあると信ずる。このビデオは神経症的悩みを持つ者には、森田療法受ける受けないに拘らず、非常に役立つだろう。もちろん広く精神医学を学ばんとする者にも参考となる。それは凡百の参考書に勝るのである。




推薦の言葉②

(「第2巻 常盤台神経科」)


河合隼雄

(心理学者)



推薦の言葉

 森田療法は、我が国に生まれ、国際的にも知られている数少ない心理療法のひとつである。私自身は森田療法家ではないが、日本人である限り、どのような学派に属していても森田療法的な観点や技法から何かを学んでいる、と思っている。
 日本人は宗教が日常生活のなかに混然として溶けこんでいるような生き方をしているのだが、このビデオを見ていると、そのことが強く感じられる。「仏教」ということが正面から語られはしないが、作業などの日常の仕事のなかに、森田療法のもっていた深い日常性が感じられてくるのである。
 このあたりのことを言語によって説明したり、伝えたりするのは大変難しいのだが、ビデオという媒体が、このことを可能にする上で大いに役立っていると思われた。大学院などで心理療法を学ぼうとする人たちのためのよき教材となるであろう。                  



森田療法と
森田療法ビデオ全集


「森田療法ビデオ全集」
監督 野中 剛 

 

森田療法とは(森田療法のはじまり)

 森田療法は、1920年代に精神科医森田正馬によって創始された、不安障害(神経症)に対する精神療法です。 
 そのオリジナルは入院療法で、4期の治療プロセスで構成されます(註1)。  

第1期 絶対臥褥期(約1週間):

 個室で一人、約一週間布団(ベッド)に横になり続ける。その間、食事、洗面、トイレを除いて、面会、談話、読書など すべての活動が禁じられる(絶対臥褥の隔離された生活)。
 心身を安静にし、自身の精神的煩悶苦悩に向き合い、「悩んでいてもどうにもならない」(悩み、苦しみの受容)、「布団から起きて、何でもいいから活動したい」(自発的行動欲求)という心境を体験する。 


第2期 軽作業期(2〜3日間):

 起床して院内生活が許されるが、交際、談話、外出などを禁じられた個人生活。
 日中は必ず戸外に出て、空気と光に触れるようにする。自分の生活回りの樹々や動植物を観察する。気がつけばゴミ拾いなど簡単な作業を行う。 
 行動に制限が加えられる事で退屈を感じ、自発的活動欲求をゆっくり維持、強化していく。
 日記指導がこの期から開始される。日記には、症状について書くことが禁止される。


第3期 普通作業期:

 院内での集団生活。大工仕事、菜園仕事、院内清掃など、作業は生活の中で自分で見つけ手がけていく。 集団生活の中での役割も担うが、基本的には個人の自主的作業が中心。決して注入的、他律的に作業が命じられることはない。結果、作業を通じて知らず知らずの間に、苦労、喜び、達成感、忍耐力、持久力を得ていく。そしてその過程を繰り返して、自信と勇気を養っていく。 この期より読書も許される。


第4期 重作業期(複雑な社会生活期):

 興味中心の作業、やりたい作業といった これまでの作業に対する価値観ではなく、集団生活の中で人としてなすべきことを実践していく。
 そんな毎日を繰り返すことによって、達成感、忍耐力、持久力、喜び、自信、勇気をさらに強化していく。
 またこの期から、入院施設から学校や仕事へと通う生活へと移行し、通常の日常生活に帰る準備期間とする。

  以上、4期で約90日の入院日数を要する治療法が、森田療法の原法とされています。また、3期と4期はその境界が曖昧なため、治療者によっては、3期と4期をまとめて“作業期”と呼んでいます。


 

現代の森田療法

 しかし近年、森田療法の入院施設は減少を続け、現在日本で入院森田療法を行っているのは、数カ所の病院施設のみです。 
  入院森田療法を減少させた要因は、

 ・入院療法施設の後継者不足と経営的維持困難。 
 ・長期入院による患者さんへの経済的負担、就業維持の困難。 
 ・薬物が進歩し、薬物療法と外来面接での森田療法的アドバイス
  (アプローチ)だけでも臨床的治癒(註2)を得られるようにな
  ってきた。(註2A:森田療法と薬物療法)  
  ・時代の流れの中で、森田療法の適応である定型的な不安障害
  (註3)
の患者さんが少なくなり、非定型的な不安障害(註4)
  患者さんが増えてきた。(註4A:定型と非定型)
 ・入院療法は治療者とその家族の生活をも巻き込むため、治療者へ
  大きな負担がかかる。

 などと言われます。 
 その結果 現代の森田療法は、外来療法へと主軸をシフトし、森田療法といえば外来面談で行われる“森田療法的アドバイスによる説得的アプローチ”が主流となっています。 
  今「森田療法とは何か?」と問われた時、多くの治療者、患者、回復者は、『あるがまま』、『不安や症状は欲望(よりよく生きたい願望)の裏返し。取り去るのではなく受容する』、『症状はそのままに目的本位に行動する』 といった森田療法的アドバイス、つまり森田療法の持つ“東洋的人間理解、生きる知恵”の部分を挙げることでしょう。



森田療法とは何か?

 しかしここで疑問が浮かびます。
 現在 森田療法の代名詞のように言われる『あるがまま』(註5)は、森田療法の治療目標を指すものです。 そして『不安や症状は、欲望(よりよく生きたい願望)の裏返し。取り去れるものではない』は、森田療法における精神病理的解釈(症状や不安の原因、理由)を指すものです。
  そこには治療論(方法論、How?)が欠けているように思います。
 『症状はそのままに目的本位に行動する(なすべきことをなす)』とよく言われますが、では患者さんにとって、症状(不安)を受容しながら行動(生活)できる方法とは何でしょう? 治療者にとって、患者さんが症状(不安)を受容した行動(生活)に後押しする、具体的な方法とは何でしょう?
 外来森田療法での言葉(森田療法的アドバイス)による行動への後押しでしょうか? 他の精神療法(心理療法)の技法の併用、薬物療法の併用でしょうか?(註8:治療論明確化の難しさ、誤解と混乱)

  ひるがえって入院森田療法は、「臥褥→軽作業→普通作業→重作業」という4段階の治療プロセス(行動プロセス)で、患者さんを、症状(不安)を受容した生活へと促していきます。患者さんは 段階的で自然な流れの中で、自己受容と健康的な行動、そして自分本来の自分を自覚していきます。
 入院森田療法では、言葉による精神に対する療法よりも先に、治療プロセス自体が、身体に対する療法であると言っていいのでしょう。
 そしてその根底には、心と身体を別物として分けて考えるのではなく、心と身体は同一のものであるという、心身同一論が横たわっているように思います。
 つまり入院森田療法は、身体に対する療法(4段階の治療プロセス=行動=生活)と、言葉による精神に対する療法(入院中の治療者との面接や日記指導)が、車の両輪のように調和したシステムとして作用するところに特徴があるのでしょう。(註6)

 「入院森田療法の4段階の治療プロセス(システム)の中に、森田療法を療法(セラピー)たらしめている治療原理のコアの部分があるのではないか?」 
 弊社作品「森田療法ビデオ全集」の中で解説を務める藤田千尋氏は そう考え、森田療法における治療論(治療方法、治療原理)を生涯追求、研究し続けました。(註7) そして、治療のキーワードとして、「治すための生活ではなく、生活のための生活」ということを強調していました。
 確かに入院森田療法施設、例えば常盤台神経科(藤田千尋院長)、高良興生院(阿部亨院長)では、森田療法の用語や理論を指導したり、それらを生活指標として入院生活を実施していませんでした。入院生活は、治すための生活ではなく、生活のための生活に重点が置かれていました。
 森田療法の思想、知恵などを手がかりに、 治す(または症状を受容する)ために生活して得た治癒と、生活のために生活して体得した治癒では、その質に違いがあるということなのでしょう。



どんな時代にも変わらない森田療法の根管部分

 今の時代は、便利でスピーディー、簡単で合理的、そして、科学的根拠(エビデンス)に基づくものにより高い価値を置くようです。そんな時代の中で、入院森田療法の治療施設が増えていくことは、現実的には難儀なことなのでしょう。入院森田療法でなければいけないという、入院療法原理主義の立場をとるのは、いささか現実離れしているのかもしれません。であれば、森田療法における 「変わっていくことと、変えてはいけないこと(不易流行)」 とは何でしょう?  

 時代に合わせて変わってゆく現代の森田療法。それは換言すると、時が経てば、またその時代に合わせて 変わっていくということなのでしょう。
 「森田療法ビデオ全集」は、どんな時代にも変わらない森田療法の根管部分。つまり森田療法の永遠に変わらない本質を伝えることを目的に制作されたDVDシリーズです。

 では その根幹部分、永遠に変わらない部分とは、一体何でしょう?
 森田療法は、理論よりも実践(行動、生活)を重んずる精神療法です。その実践の過程では、体得と呼ばれる体験的理解(非言語体験)が重視されるため、療法の根幹部分が言葉で表現しづらく、言葉にしたとしても伝わりにくく、誤解と混乱を招きやすいと指摘されています。(註8:治療論明確化の難しさと誤解と混乱)
 「森田療法ビデオ全集」は、映像で伝えることによって、そんな言葉では伝わりにくい根管部分を、より伝わりやすくしようとしています。
  それぞれの作品は、主にドキュメンタリーという映像形式を用い、不安障害(神経症)当事者の視点、治療者の視点、自助グループの視点、入院森田療法の視点、外来森田療法の視点、巨匠たちの視点、といった様々な視点から、「森田療法」の根幹部分を浮き彫りにしようと試みています。 
 そして、悩める方々の傍らに寄り添い、「森田療法の理解」「癒やし」「希望」「勇気」「行動への後押し」の一助になればと願っています。



今後の「森田療法ビデオ全集」

 現在「森田療法ビデオ全集」は、第5巻でリリースが止まっています。
 「こうしたら治る!」「症状対策」など、悩んでいる人たちにとって耳ざわりのよい巻を作れば、経済的な利益をもたらすかも知れません。しかし、そういった症状対策(症状除去)を目標とする作品を作れば作るほど、それは森田療法から離れていってしまいます。むしろ悩む人たちの治癒を遅らせてしまうでしょう。 
 そのようなこともあり、第6巻以降の制作には、制作者としてはとても慎重になっているのが実情です。 
 人それぞれに違う人生、違う境遇。その中で生まれてくる悩みや不安ですから、どれ一つとっても同じ悩み、同じ不安はないはずです。一つ一つの悩み、不安の背後には、一つ一つの人生の重みがあります。そしてその治療法に関する映像ですから、軽々しい内容の作品制作や、販売のための喧伝は行わないよう、常に強く自戒している次第です。
 しかし、制作はこれで終了とは考えておりません。取材活動は引き続き行っております。取材の中で何かよい出会いが生まれれば、次巻の制作に着手するつもりです。辛抱強くお待ちいただけましたら幸いです。




【脚註】

 

註1)「入院森田療法 4期の治療プロセス」参考文献: 

  『現代の森田療法 理論と実際』白揚社(1977)191頁
     「森田療法の原法」 阿部 亨
  『森田療法の理論と実際』金剛出版(1975)86頁
     「第4章 入院治療の理論と技法」阿部 亨

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註2)臨床的治癒:                  

 症状は完全に消失はしていないが、社会生活は営める状態。
 精神科医 阿部 亨氏による精神医学用語。

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註2A)森田療法と薬物療法:

 森田療法と薬物療法の関係については、以下のように多くの治療者が言及しています。


「森田療法は入院治療を原則とするが、今日、抗精神薬の開発により、神経症にあっては通院でも治療が十分に行えるようになった」
出典:『新版 森田療法入門 生きるということ』(田代信維 / 創元社 / 2005 / 232頁)


「原法では抗不安薬などの妙薬がなかった時代の治療法なので使用されていないが、今日では、神経症は病状を軽快させる特効薬があるので好んで用いられている」
出典:『新版 森田療法入門 生きるということ』(田代信維 / 創元社 / 2005 / 154頁)


「森田療法では、薬物療法は補助的な位置づけを明確にした上で用いることが原則です。当面の症状や不安をある程度軽減して、これとつきあいながら生活を立て直すための助けとするとの意味合いを確認し、併用の要否を患者と相談して決定します。したがって、症状の消長によって増減することは禁じて、少量の抗不安薬などを規則的に服用するのが一般的です」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 ミネルヴァ書房 / 2005/「7 外来治療」立松一徳 / 109〜110頁


「 現代の森田療法では薬物療法を併用することも多く見られます。しかし、薬物中心の治療とは薬物の使用に対する考え方に違いが見られます。それは、次のようなことです。
①実際に使う薬は、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠導入剤など。
②症状の改善という本来の効果を知っていても、あくまで補助として使用し、「これを飲むことによって症状をもったままの生活でも幾分やりやすくなる、ということが薬を飲む目的です」と伝えて処方する。
③定期的に服用する。(中略)薬自体の効果はありますが、飲めば100%効くというわけではないので、飲んでいる薬の効果がどうであれ定期的に服用するようにします」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法(北西憲二、中村敬編著)』ミネルヴァ書房 / 2005 / 「4 外来森田療法Ⅱ(パニック障害・診療内科における森田療法)」伊藤克人 / 206~207頁



「最近では生物的要因も関与していることが指摘され、「強迫性障害」の名称が用いられるようになりました。実際、治療においてもクロミプラミンに加え、SSRIなどの薬物療法が積極的に用いられ、その治療の幅が広がりつつあります。しかしながら、薬物療法のみで治療が完結するとは言い難く、心理的療法も用いながら患者の強迫的なありかたを修正していくことが必要です」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法(北西憲二、中村敬編著)』ミネルヴァ書房 / 2005 / 「6 外来森田療法Ⅳ(強迫性障害)」久保田幹子 / 230頁


「薬物療法は、不安や症状をもちろん抜本解決するわけではありませんが、患者が、自らが不安恐怖するところのものに直面しようとするときに、不安や緊張を和らげ行動しやすくする効果を持つでしょうし」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法(北西憲二、中村敬編著)』ミネルヴァ書房 / 2005 / 「12 外来森田療法Ⅹ(クリニックのシステムとして)」比嘉千賀・原田憲明 / 346頁


「薬を使わないというのは、森田先生の時代やかなり昔のことであり、現在では必要に応じて薬を併用しているところが多いでしょう。
(中略)しかし、薬物はあくまで補助的なものであり、不安や症状と付き合いつつ、必要な行動に取り組む際の踏み台のような役割になります。当然、症状の状態や程度によっては薬を使わないこともあります。つまりケース・バイ・ケースということです」
出典:『新時代の森田療法 〜入院森田療法最新ガイド〜』慈恵医大森田療法センター編 / 白揚社 / 2007 / 95、96頁 /「Ⅲ 森田療法Q&A」


「とくに治療の初期段階では、不安が強いためにかえって身動きが取れなくなってしまうこともあります。そうしたときには、無理に自分の力だけで頑張ろうとせずに、当座は薬の力を借りながら、新しい行動に踏み込むことを優先していきましょう。そこでの体験の積み重ねから、不安と付き合う姿勢が培われたならば、徐々に減量し、最終的に薬をやめることは可能なのです」
出典:『新時代の森田療法 〜入院森田療法最新ガイド〜』慈恵医大森田療法センター編 / 白揚社 / 2007 / 97頁 /「Ⅲ 森田療法Q&A」


「薬物の併用によって、たとえば重症の強迫神経症やうつ病の人に対しても森田療法の適応が広がったことは事実です。とくに最近では、SSRIというタイプの薬物がパニック障害や強迫性障害などに広く用いられています。しかし一方では、社会恐怖(緊張型の対人恐怖症)や心気障害のように、薬物を用いなくても森田療法単独で十分改善が見込まれる病態があります。したがって現代の森田療法の治療者は、診断や重症度などを考慮に入れて薬物の併用を柔軟に考えるようになっています」
出典:『新時代の森田療法 〜入院森田療法最新ガイド〜』慈恵医大森田療法センター編 / 白揚社 / 2007 / 56、57頁 /「Ⅰ 森田療法とはどのような治療法か 9 薬物療法の併用について」


「対人恐怖の重症度によっても違うと思うんです。なんとなく人から見られている、見透かされている。対人恐怖の中でも重いほうですね。やはりこれは、服薬ということが結構、要(かなめ)になってくると思います」
出典:『第131回心の健康セミナー「森田療法は我々に何を教えてくれるのか」』 樋之口潤一郎 /2013.04.13 / 動画掲載HP:https://lineblog.me/mental_health/archives/198207.html

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註3)定型的な不安障害(神経症):         

 精神的な弱さとそれに逆らおうとする強さを同時に持つ。
 精神交互作用、思想の矛盾など、森田学派の唱える症状発生原因やプロセスに基づく症状と、それに伴う不安(予期不安、適応不安など)が認められる。
 内向性や完全欲が強いなどの神経質傾向が認められる、など。
 (参考文献:『外来森田療法のガイドライン』日本森田療法学会)

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註4)非定型的な不安障害(神経症):

 精神的な弱さが主で、それに逆らおうとする強さがあまりない。
 精神交互作用、思想の矛盾など、森田学派の唱える症状発生原因やプロセスに基づく症状と、それに伴う不安(予期不安、適応不安など)が認められない。
 内向性や完全欲の強さなどの神経質傾向が認められない。
 自我の形成が遅れている、など。

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註4A)定型と非定型:

精神科医 北西憲二氏は、森田療法における「定型・非定型」について以下のように述べています。


「現代社会では、森田の時代のような訴えの焦点がはっきりした古典的な表現形をもつ神経症が減少し、境界のはっきりしない不安、抑うつを訴える神経症あるいは人格障害が増えてきました。このような現代の神経症や人格障害には、しばしば伝統的な森田療法では対応が困難となります」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 ミネルヴァ書房(2005)143頁 「9 森田療法を学ぶ人のために(研修システム」北西憲二  

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註5)あるがまま:                  

 「あるがまま」の治療的解釈については、精神科医 阿部 亨氏による以下の文章を引用させていただきます。

 『高良は、「あるがまま」について、その第一の要点は、症状あるいはそれに伴う苦悩不安をそのまま素直に認め、それに抵抗したり、反抗したり、あるいは種々の手段を講じてごまかしたり、回避したりしないで、まともに受け入れることであり、第二の要点は、症状をそのまま受け入れながら、しかも患者が持っている生の欲望に乗って建設的に行動することで、「あきらめ」とは違い、症状に対してあるがままであるとともに、向上発展の欲望に対してもあるがままなのであると述べている』
   
 出典:『現代の森田療法 理論と実際』(白揚社 / 1977 / 245頁 /「高良興生院」阿部 亨)

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註6)入院森田療法の特徴:               

 入院森田療法の治療環境は、大学病院から個人経営診療所まで まちまちで、それぞれの施設(院長)特有の個性があると言えます。

 【高良興生院(阿部 亨院長)の場合】

  (環境を重視した入院森田療法)
   ① 4期の治療システム(臥褥→軽作業→普通作業→重作業)
   ② 生活をする(生活のための生活)
   ③ 治療者による診察(個人面接、日記指導)
   ④ 樹々、花壇などの自然
   ⑤ 家庭的雰囲気
   ⑥ すべての治療スタッフが不安障害(神経症)体験者
   ⑦ 治療者による講話

 【常盤台神経科(藤田千尋院長)の場合】

   (外来森田療法との差異をできるだけ少なくした入院森田療法)
   ① 4期の治療システム(臥褥→軽作業→普通作業→重作業)
   ② 生活をする(生活のための生活)
   ③ 治療者による診察(個人面接、日記指導)
   ④ 樹々、花壇などの自然
   ⑤ 家庭的雰囲気

 阿部 亨院長(高良興生院)は、高良興生院での入院森田療法の特徴を、『環境療法+森田的指導』という言葉で表現します。
 この場合の「環境」とは、上記③を除いたすべてを指すといいます。
 特に阿部氏は、治療スタッフ全員が不安障害体験者であることにより、治療者と患者さんが、相互に理解し合える安心の場としての治療環境を重視していました。卓球、ガーデン・ゴルフ、絵画教室なども開催され、時に治療スタッフも参加しました。
 また、高良武久氏、阿部 亨氏が定期的に行う講話は、患者さんの心性や傾向、健康的な生き方などを想起させる示唆に富んだ内容で、高い評判を得ていました。
 高良興生院の特徴は、入院のメリットを最大限に活かした森田療法だったといえるでしょう。

  一方、藤田千尋院長(常盤台神経科)は、外来森田療法との差異をできるだけ少なくした入院森田療法を目指していました。
 そのため、藤田氏が入院患者さんに会うのは週に1回の治療面接(30分〜60分)のみで、患者さんの生活の場に入って一緒に卓球などのレクレーション、講話などをすることはありませんでした。その代わりに藤田夫人が患者さんの生活の場に関わり、言わば母親的役割を担っていました。治療スタッフの人柄はまちまちで、不安障害体験の有無は問いませんでした。
 常盤台神経科の特徴は、入院森田療法の家庭的雰囲気を保持したまま、できる限り一般の人と同じ生活環境と生活を心がける森田療法だったといえるでしょう。

 高良興生院と常磐台神経科の違いは、黒澤明の映画と小津安二郎の映画の違いのようだったのかもしれません。しかし、どちらも紛れもない森田療法であったことは確かなことです。

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註7)「臥褥を取り入れた外来森田療法+外来3者療法」:

 藤田氏は亡くなる直前まで「臥褥を取り入れた外来森田療法+外来3者療法」など、入院森田療法の中にある治療原理を、外来森田療法の中に活かす構想を練っていました。論文としては未完成の状態ですが、将来ホーム・ページ上に多少の解説を加えて無料公開する予定です。  

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註8)治療論明確化の難しさ、誤解と混乱:


 精神科医 北西憲二氏、長山恵一氏は、治療論明確化の難しさ、そして根幹部分(本質)が言葉で伝えにくい森田療法について、以下のように述べています。

「森田学派は伝統的に治療過程において非言語体験を重視し、そして森田自身、そして現在においても理論よりも実践を重んずる傾向があることは否めない。そしてその実践の場である治療構造は、多因子的で、かつそれらが渾然一体となって治療システムを作っているため、治療構造を軸とした神経症理論や治療論の見直しが困難である。それらが森田療法に関する多くの誤解と混乱を招いた最大の原因だろう」
出典:『森田療法の研究 新たな展開を求めて』(金剛出版 / 1989 / 115頁 / 「総説 森田療法 森田療法における治療論を中心に」北西憲二、長山恵一)

 また、森田療法の非言語体験や治療目標などを言葉で表現した森田用語(「あるがまま」「なすべきことをなす」など)が、時に治すための方法(態度)としてスローガン化(標語化)されてしまったり、意味を誤解されてしまう。そして、そんな森田療法用語にとらわれてしまい 逆に悩みをさらに深めたり、混乱を招いてしまうことは、以下のように多くの治療者から指摘されています。

「『なすべきことをなす』ことを完璧に実践できない自分に、また劣等感を加えてしまうのです。そうでなくても、何かにつけて人と自分を比較して自分にダメ出しをする習性のあるのですから、なすべきをなそうとすることが悩みを深くしてしまうことにもなりかねません。」
出典:『流れと動きの森田療法』(岩田真理 / 白揚社 / 2012 / 232~233頁)


「森田療法の真髄と言われる『あるがまま』という言葉は、このように神経質の人を混乱させます。ところが森田正馬自身は、この『あるがまま』という言葉を、それほど多様していません。『あるがまま』という言葉が独り歩きすると、神経質の人はそれを目標にしてかえって混乱するということを、どこかの時点で理解し、なるべく他の言葉で言い換えたようです」
出典:『流れと動きの森田療法』(岩田真理 / 白揚社 / 2012 / 171〜172頁)


「特に『あるがまま』という治療的概念はさまざまに解釈され、それが森田療法という日本独特の精神療法にある種の偏見や誤解を生んだことは否めない」
出典:『森田療法の研究 新たな展開を求めて』(金剛出版 / 1989 / 168頁 /「Ⅳ森田療法における治療論 基本的概念の検討を通して」北西憲二)


「②あるがまま
 不安にとらわれない態度をしめす言葉として、森田療法の代名詞のように使われます。しかし、とらわれの態度の目立つ患者に対して治療の中で使うことは禁忌です。当面の不安に対して用いる場合はそうあるべきだとの観念的な姿勢を強めてしまう可能性が高く、治療目標の意味で用いる場合は治療や治癒像を理想化することばとなりかねないからです」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 (ミネルヴァ書房(2005)121頁 「7 外来治療」立松一徳)


「③目的本位
 『目的本位に』『なすべきことをなせ』などと、患者に対しての行動指針として用いられることがあります。このことばも治療の中で使うことは禁忌だと思います。とらわれの態度の強い患者に対しては、こうであるべきだとの観念的な姿勢を強めかねません」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 (ミネルヴァ書房(2005)122頁 「7 外来治療」立松一徳)


「④恐怖突入
 このことばも、治療の中で用いることは禁忌です。恐怖を敵に回してこれとたたかい、のりこえようとするような態度を強化しかねないからです」
出典:『心理療法プリマーズ 森田療法 (北西憲二、中村敬 編著)』 (ミネルヴァ書房(2005)122頁 「7 外来治療」立松一徳)

>>戻る(森田療法とは何か?)

>>戻る(どんな時代にも変わらない森田療法の根幹部分)

 



【謝辞】

 文章作成にあたりご校閲をいただいた、阿部亨先生、増野肇先生、丸山晋先生に、この紙面を借りて感謝申し上げます。特に阿部先生には、懇切丁寧なアドバイスとご指導をいただきました。重ねてお礼申し上げます。







作品紹介




第1巻
生きる

 
 森田療法 総論。8名の不安障害(神経症)経験者たちの語る治癒までの道のり。対人恐怖に悩みながらも、ひたむきに生きる青年のドキュメンタリー。藤田千尋医師が、分かりやすい日常語と比喩表現で、不安障害(神経症)と森田療法を解説します。
 医大や大学心理学部の授業の教材としてもご利用頂いている作品です。
推薦:土居健郎 (精神科医 / 「甘えの構造」)




第2巻
常盤台神経科

 
 森田療法の原点、入院森田療法に関するドキュメンタリー。常盤台神経科院長 藤田千尋氏は、自宅敷地内で、少人数で家庭的という、かつて森田正馬が行っていた入院療法に極めて近似した形の入院森田療法を行っています。そんな入院森田療法施設のドキュメンタリーという、他に類のない貴重な映像記録です。森田療法の本質、今後の森田療法を考える上で、見逃せない作品です。
 医大や大学心理学部の授業の教材としてもご利用頂いている作品です。
 推薦:河合隼雄 (心理学者)
 第16回パルヌ国際ドキュメンタリー人類学映画祭 招待作品




第3巻
生活の発見会

 
 森田療法の思想をベースに運営される自助グループ“生活の発見会”の紹介。
 生活の発見会の活動には、「森田理論の学習」と「集談会(体験を語り合う会)」の二本柱があります。本作品では「集談会」をドキュメンタリーとして紹介しています。
 「理論学習をしても、集談会が伴わなければ砂上の楼閣。自助グループでまず大切なのは集談会」と、作品中で解説の比嘉千賀医師も述べています。
  集談会における人と人との共鳴、そしてそこから生まれる自己治癒、自然治癒の中に、森田療法の治療原理と同質のものを垣間見れないか? そんなテーマを基に制作されています。



第4巻
悩める人への
生きるヒント
精神科医
阿部 亨


 高良興生院は、森田正馬の愛弟子 高良武久氏が1940年に開院した入院森田療法施設です。いわば森田正馬直系の病院で、近年の入院森田療法の中心的施設でした。本作品は、そんな高良興生院で長年院長を務めた精神科医 阿部 亨氏へのインタビュー作品です。生涯にわたって院長を務めた阿部氏の臨床経験は、膨大な数にのぼります。人は敬意を込めて彼を「ミスター森田療法」と呼びます。阿部氏が作品中で語る臨床経験、森田療法、生きるヒントは、揺るぎのない説得力を持っています。巨匠への貴重なインタビューです。



第5巻
悩める人への
生きるヒント
精神科医
藤田千尋


 阿部 亨氏が、森田療法における臨床の巨匠であれば、藤田千尋氏は、理論の巨匠でした。本作品は、第1、2巻では採用されなかった映像素材を使用した、藤田千尋氏へのインタビュー作品です。森田療法と不安障害(神経症)全般について語っています。
入院森田療法だけでなく外来森田療法も行っていた藤田氏の語る外来森田療法。また圧巻なのは、見事な比喩、例え話で語られる森田療法と不安障害の説明と解説。悩める人にとっては、「自分はどう生きたらいいのか?」を考える上で参考になるでしょうし、治療者にとっては、藤田氏の例え話は、外来面談に大いに参考となるでしょう。




          
森田正馬 森田正馬
       (1874〜1938)

 1874年高知県生まれ。東京帝国大学医学部を卒業。1938年、東京慈恵会医科大学名誉教授。自宅を開放して神経症患者の家庭療法的治療を行う。森田療法を確立させたのは、この自宅を開放した診療所による実践経験が大きい。
 もともと自身も神経症体験を青年期に持っており、その経験が、療法や患者への接し方に大きく反映している。
 当時の精神医学界は、心の病気の原因を脳や神経などの身体によるもの(身体因)とすることが世界的な動向であった。しかし森田はこれを、心によるもの(心因)とし、世界の様々な療法を参考にしながら、森田療法を創始した。
 当時の森田療法は、鍛錬療法、不問療法などと呼ばれ、医学会の中で異端視されていた。しかし、森田は自身の論文に何度も修正を加えながら、約20年かけて森田療法を確立させた。
 1938年、肺炎のため64歳で死去。

 



     神経症
   (不安障害、神経症性障害)


 神経症(不安障害、神経症性障害)とは、心身に対する健康で当たり前な感情や感覚を、病的なものとして受け止め、必要以上に強く不安、恐怖する、心身の機能障害です。
 森田正馬はそれを「神経質」と呼び、後継者の高良は「神経質症」と名付けました。その後それは「神経症」と呼ばれるようになり、一般にはノイローゼとも呼ばれています。
  近年の日本の精神科臨床では、診断基準「ICD」と「DSM」が標準となり、「神経症」という診断名は使用されなくなりました。「不安障害」や「神経症性障害」という診断名になっています。
 「ICD」と「DSM」は、ヨーロッパとアメリカで創始され、診断と治療の合理化と国際統一化を目的とした国際的診断基準です。 ですが、患者さんの悩みの本質にそぐわない、診断名が変わることにより治療法や処方薬が容易に変わってしまうという批判の声も一部にあります。 また心の病気の病理解釈、診断名は、今後の医学の進歩や時代の変化によって変わっていく可能性も充分にあります。
  それを踏まえ本DVDは、あえて森田学派による病理解釈、診断分類に基づいて構成されています。

 森田は神経症を以下のように大別しました(森田学派による診断分類)。

 1) 固有(普通)神経質 (症):
   不眠症、頭痛・頭重、めまい、耳鳴り、感覚異常、疲労亢進、
   脱力感、能率減退、胃腸神経症、書痙、記憶不良 など。

 2)発作性神経症:
   心悸亢進発作、不安発作、呼吸困難発作 など。

 3)強迫観念症:
   対人(赤面・視線・正視・表情 等)恐怖、不潔恐怖、確認恐怖
   、縁起恐怖、読書恐怖、雑念恐怖、不完全恐怖、罪悪恐怖、吃音
   恐怖 など。

「ICD」や「DSM」における診断分類「パニック障害」は、「2)発作性神経症」に分類され、「社交不安障害」「社会不安障害」「強迫性障害」「広場恐怖」 は、「3)強迫観念症」に分類されます。